NEKOKURAGE 幻の猫くらげ
2013年 12月 12日
目撃者を求め、人伝えにようやく探しあてた湖畔の東屋に住む老人に私は尋ねた。
「見たかもしれん」 髭をたらした枯れ木のような老人は空を指差す
「2匹向かい合って飛んでいたな ほれこんな感じに 」ふ~っふ
老人は黒い竹細工でできたクラゲのようなものを紐でぶらんぶらんと上下させながら溜息をつく
「向き合って飛ぶのもおったし 腹を擦り合わせて 飛んでいたのもおったな」
「腹合わせのほうは黒い ばってんがのっかっておったな」
「そんでも、ばってんのほうは たいていは地面でのたくっておったがな」
彼は地面に向けて両の手のひらをひらひらさせる
「この次は行きつ戻りつのヤツもみられるかもしれんて」
「それは いつごろ?」 もしかして見られるのか?私は興奮して尋ねる
老人は竹細工のクラゲを私に突き出して、はいお駄賃頂戴とばかりに手のひらを開いて見せた
教えて欲しければ、この黒い竹細工を買えと言う事らしい
「おいくらですか」?
老人は指を3本立てた 300円?3000円?まさか3万円?
とりあえず100円玉を3枚出すと老人はそれを鷲づかんで
「また こんどじゃな」
と言って すっと消えた。
100円玉を鷲づかみにされたときに触れた老人のやけに暖かくささくれだった指の感触だけが
私の手のひらに残った。
湖のやさしい波の音で我にかえると。
いつのまにか湖畔は山の陰ですっかり暗くなり対岸に町の明かりがチラチラ光っていた。
いつか私も猫くらげの飛行を見ることができるだろうか?
※猫くらげとは大きな水くらげに猫の耳がのっかったようなものが
朝と夕方の風が凪いだときにだけ空中を漂うように
浮かぶ 謎の生物である。その飛行を見たものには福が訪れると言い伝えられている。
少しはタイミングが合うようなそぶりを見せたのでしょうか。一番可能性があると思っていたんですけど。
自分は、羽ばたきが同期しないと飛べないと考えています(まだ何も実験してないけど)。